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ヘロデ王の時代、ユダヤにザカリアという名の祭司が住んでいた。ザカリアとそ
の妻エリサベトは正しい人で、つねに神の掟を守っていた。


彼らのたったひとつの嘆きは、子どもがないことであった。しかし今はふたりとも
年をとり、家系を保つ希望を捨てていた。


エルサレムの神殿で祭司の務めをしていたザカリアは、あるとき、くじで選ばれ
て聖所で香をたくことにした。香をたく時間帯には、人々が聖所の外の庭で祈り
を捧げていた。


ザカリアが、祭壇から立ちのぼってくるかぐわしい香の煙を見守っていると、天
使が彼のそばに立った。ザカリアは恐怖の念におそわれたが、天使は彼に、
優しくこういった。「わたしはガブリエルである。あなたの祈りは聞き入れられ
た。あなたの妻は男の子を産むだろう。その子をヨハネと名づけなさい。その子
はあなたがた夫婦にとって大いなる喜びとなり、この世に多くの幸福と平和をも
たらすだろう。彼は主の御前に大いなる者となり、彼を通して多くの人が神のも
とに立ち返るだろう」


「どうしてそのようなことが起こりえましょうか」ザカリアは信じられずに、そう叫
んだ。「何しろわたしは老人ですし、妻エリサベトも子どもを産む年齢を過ぎて
います」


「わたしは主の天使である」とカブリエルはおごそかにいった。「わたしはあな
たに語りかけて、この喜ばしい知らせを伝えるために神から遣わされた。時が来
れば実現するわたしのことばを信じなかったから、あなたはこのことの起こる日
まで、話すことができなくなる」


そのあいだ、外にいた群衆は、祭司ザカリアがなぜ神殿にこれほど長くとどまり
、彼らの前に出てこないのかとふしぎに思い、ざわめきはじめた。やっと出てき
たザカリアは、口がきけなくなり、身振りで示すことしかできなくなっていた。人
々はすぐに、ザカリアが幻を見たことをさとった。


務めを終えたザカリアは、妻の待つ家に帰った。そして天使が予告したとおり、
エリサベトはまもなく身ごもった。彼女は神が自分を選んで、その子を身ごもら
せたことを喜び、家の中で心静かに過ごした。


       *おとなと子どものための聖書物語(フレーベル館)*
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